2サイクルの排気システム

2020/12/16


2サイクル、4サイクル問わずレシプロエンジンの内燃機関の場合、混合気の吸気、排気のタイミングはエンジン性能に直結する極めて重要な要素です。特に問題となるのが、この適切なタイミングが低回転高回転で違うことです。低回転向けのタイミングにすると、高回転が伸びず、ピークパワーが出ません。一方高回転向けのタイミングにすると低回転がスカスカ(所謂トルクがない状態)で非常に運転がしずらかったり、排ガスも汚くなり、燃費も悪くなります。

しかしこの説明で、なるほどその通りだと納得できる人がどれくらいいるでしょうか。この原理をバイクやエンジンの素人でも理解できるようにするには、レシプロエンジンの内燃機関の基本原理の話からしないといけません。


4サイクルエンジンの場合

これを説明するには4サイクルエンジンの方が分かりやすいので、先にこちらから説明します。以下は4サイクルエンジンの仕組みを説明した一般的な図です。

[4サイクルエンジンの仕組み]

まずは吸気行程です。キャブレターによって空気ガソリンが気化したものを混合した所謂混合気というものが作られます。重量比でガソリン1対空気15が理想と言われてますが、これはキャブレターインジェクションの役割です。キャブレター等で作られた混合気は吸気ポートを通り、吸気バルブが開いて、ピストンが下がり、シリンダー内に流入します。正確にはピストンが下がるので、それに吸い込まれるように混合気が流入する訳です。

次に吸気バルブが閉じてピストンが上がり、混合気を圧縮します(圧縮行程)。この間バルブは吸気側も排気側も閉じています。次に点火プラグで発火して混合気が燃焼、爆発し、ピストンを勢いよく押し下げます(燃焼、爆発行程)。ここがエンジンの働きの肝ですね。この工程の間も両バルブは閉じています。そして最後排気バルブが開いてピストンが上がって燃焼ガス(排ガス)外部(排気ポート)吐き出し(排気)します(排気行程)。

まさにこの4つの行程があるので4サイクルと呼ぶ訳ですが、これくらいの原理は恐らく多くの人が聞いたことがあるでしょう。少なくともバイク乗りなら常識、そんなこと分かりきっているという方が殆どかと思います。


実際のバルブ開閉

しかしこの両バルブの開閉については、机上の空論とまでは言いませんが、原理を説明するために非常に単純化した説明です。実際はこんな単純ではありません。例えば圧縮行程の初期段階です。

圧縮行程は前述のようにピストンが上がり、シリンダー内の混合気を圧縮する訳ですが、この行程が始まっても吸気バルブは開いたままなんです。そんなことしたら混合気がキャブレター側(吸気ポート側)に逆流するのではと思う方もいるでしょう。

その疑問はもっともですが、実際ピストンが上がり始めた時、ピストン近くの混合気は圧縮され始めますが、それはシリンダー上部の混合気にはまだ伝わりません。むしろ吸気行程時の混合気流入の慣性によってまだ吸気が続いているのです。この動きを利用しないのは勿体ないので、吸気バルブは圧縮行程の初期段階では開いたままにするのです。

金属(個体)であるピストンやクランクの動きに気体である混合気はリニア、瞬時に連動できません。ピストンの動きについてこれない訳です。そのためこうしたずれというかタイムラグが発生するのです。個体と気体の物理的性質の違いがその根本にある訳ですね。何気に奥が深いです。

このようなことは排気の時も起きます。また排気の場合はもう少し興味深い現象も起こるのです。

排気行程は前述のようにピストンが上がり、排気バルブが開いて排気する訳ですが、この行程の終盤で既に吸気バルブを開きます。そんなことをしたらやはり吸気ポート側に排ガスが逆流するのではと思うかもしません。

しかし実際はやはり排気の慣性によって、むしろ新混合気が引っ張られてシリンダー内に吸い込まれるといった現象が起こります。この現象も利用しない手はないので、排気行程の終盤で吸気バルブを開き始める訳です。

またこの後吸気行程に移っても(ピストンが下がり始めても)、同様の原理で排気はまだ続いているので暫く(シリンダー内が綺麗に排ガスと新混合気が入れ替わるまで)排気バルブは開いたままにします。

また図示はしてませんが、燃焼・爆発行程の終盤でも排気バルブを開き始めます。燃焼・爆発行程も終盤になると最早シリンダ上部のガスはピストンを押し下げる力になっていないので、むしろ速やかに排気が開始できるよう少し先に開いているのです。

このようにバルブの開閉は複雑に各工程に跨ります。これをバルブの開閉のオーバーラップと呼んでます。このオーバーラップの大きさ、長さはカムの回転角度で表現するのが普通です。カムは4サイクルの全行程で1回転(360度)しますから、「何度吸気バルブは圧縮行程にオーバーラップする」といった形で表現します。

※ 余談ですが一般的には最も重要な排気行程終盤から吸気行程初期の排気バルブと吸気バルブの両方が開いている期間を狭義のカムのオーバーラップと呼ぶことが多いようです。

前提の話をここまで長々としましたが、ここから本題に入っていきます。

前述のピストンの動きと混合気の動き(流れ)とのタイムラグですが、ピストンが高速に動く高回転と、遅い低回転では大きく違います。高回転の方がタイムラグが大きくなるのは容易に想像できると思います。そのため適切なオーバーラップ角が高回転と低回転で違う訳です。

例えば排気行程終盤から吸気行程初期の両バルブのオーバーラップですが、低回転時にこれがあまり長いとやはり普通に懸念されるように混合気の逆流が起きてしまいます。逆に高回転時に短いと混合気と排気の入れ替えが十分に行われません。こうした高回転と低回転での違いはその他の行程でも同じです。

またここで注意して欲しいのは、排気バルブにしても吸気バルブにしても、高回転の方が早く開けたいし、閉めるのは遅らせたいのです。つまり高回転の方がいずれも開いている時間を長くしたい訳です。オーバーラップ角で表現すると角度が広いということです。

どのようなオーバーラップ角にするか(カムのプロフィールと言います)は悩みどころなんです。レーサーであれば高回転重視でもいいでしょうが、様々な場面の走行を考えないといけない市販車では低回転も疎かにできません。もっともレーサーでもコーナーなど速度を落とさないといけない場面が多いので低回転のトルクがあった方が有利です。

そのため4サイクルでも高回転用と低回転用の異なったプロフィールをもつカムを用意して回転数で切り替える可変バルブタイミング機構を備えたエンジンが開発されています。


充填効率と回転数

さて次からこのページの本題である2サイクルの話に入って行きますが、その前にそもそも論の話をしておきます。本来このページの最初の方に書いても良かったですが、具体的な話をした後の方が頭に入りやすいと思い、ここまで引き延ばしてきました。

とにかく内燃機関が目指すのは出力を上げること。出力を上げるには沢山のガソリン分子が燃焼・爆発すればいい訳です。そこで一番簡単なのは排気量を増やすことですね。具体的にはシリンダーの容量を増やすのです。そうすればいやでも1回に爆発するガソリン分子が増えます。しかし排気量を増やせばエンジンはどんどん大きくなり重くなります。コストもかかるし置き場にも困るし、そもそも無限に増やすことなどできません。どこかで適切な排気量に抑える必要があります。

では排気量が決まったら、その限られた排気量でどうするのでしょうか。ここに充填効率という概念がでてきます。排気量が一定ということはシリンダー内の体積が一定ということです。一定の体積の中でより多くのガソリン分子を爆発されるには分子の密度を高めるしかないです。具体的にはシリンダーの中に混合気がなるべく沢山入るようにしつつ抜けてしまわないようにすることです。とにかくシリンダー内を高い圧力の混合気で充満させること。もう一つもはやエネルギー源にならない不要な排ガスが混じらないようにすること。しっかり排ガスを排出するということですね。

結局これしかないんですよ。ある意味単純明快ですが、これらを向上させることを充填効率を上げるといいます。 従って内燃機関の目指すところは、ひたすら充填効率の向上をはかることだと思っていいです。これはよく覚えておいて下さい。

しかしここにもう一点軸の違う話が出てきます。それは時間軸の話。上記の話は1回の爆発でどれだけ多くの力を出せるかの問題。スペックでいうと最大トルクとなり、1回転でどれくらいの仕事ができるかを表現したものです。 だたどれほど1回転で多くの仕事ができても、それが1時間かかるのと1分でやれるのとでは、当然後者の方が優れているということになります。このようにトルクに時間軸の要素を加味してエンジンの力、仕事量を総合的に評価したのが最高出力で単位はご存知のように馬力(PS)です。

これを上がるにはとにかく回転を上げること。例えば1回転で1の仕事ができるエンジンが 3000rpmで回った時は1分間に3000の仕事ができる訳ですが、6000rpmだと6000の仕事ができるということになり、回転を高くすればするほど出力が高くなるということになります。

これまでも内燃機関の開発者はトルクを上げること回転を上げることにひたすら邁進してきた訳です。

しかしこれら二つは別々のアプローチなのかというとそうではありません。確かに回転を上げることに特化したアプローチや逆にトルクアップだけに有効な施策もあります。しかし多くが両方に絡んでいます。というのは回転が上がらないというのはどういうことかを考えれば分かります。これはある一定の回転まで上がるとそれ以上上がらなくなる、つまり回転上昇を妨げる要因があるのです。そこには様々な要因があるのですが、それを取り除けば回転が上がるはずです。

その要因のうち多くがある一定の回転まであがると充填効率が下がって力が出なくなってしまうのです。結局その原因を取り除き、高回転でも充填効率を高めることがすなわち回転を上げるということに繋がるのです。

しかしそこでいつも問題になるのが、高回転での充填効率を上げる施策を実施すると低回転での充填効率が下がるというジレンマなのです。前述の4サイクルの例でもそれが分かるかと思います。


2サイクルエンジンの場合

さて高回転と低回転が両立し難い問題は当然2サイクルにもあります。根本原因であるピストンの動きに気体である混合気がついていけないのは同じだからです。むしろ2サイクルの方が深刻かもしれません。というのは2サイクルには吸気バルブや排気バルブ、そしてそれらを開閉するカムがありません。基本的にピストン自体がそれらの役割を担うためです。そのことをもう少し説明しましょう。

[2サイクルエンジンの動き]

このアニメーションの例はクランクケースリードバルブ方式のものですが、まず吸気は図の左下の方のクランクケースに開いた吸気ポートから混合気が入ります。吸気ポートには混合気の圧力で開閉するリードバルブがあります。4サイクルだとクランクケースってクランクが存在するただの部屋ですが、2サイクルだと混合気の通り道であり、しかもここで1次圧縮も行われえる重要なパーツです。

クランクケースで1次圧縮された混合気はその後この図だとシリンダーの左側に開いた掃気ポートからシリンダーに入ります。掃気ポートは2サイクル特有のポートですが、混合気のシリンダーへの入り口という意味では4サイクルの吸気ポートに相当します。またご覧のようにピストン自体がその開閉を司ります。

その後更にピストンによって圧縮され、点火、燃焼・爆発はほぼ4サイクルと同じで、やがて図上はシリンダー右側に開いた排気ポートから排気されます。排気ポートもやはりピストン自体がその開閉をする訳です。

特徴的なのが掃気ポートから流入する混合気は前述のように既にクランクケース内で1次圧縮されている上、ピストンが下がってきて、それに押されるので、シリンダーに勢いよく入ってきます。そしてこれが排ガスを押し出す働きをします。まさに掃き出すのでこの名が付いてます。4サイクルで言うところの吸気と排気が同時に行われる訳ですが、吸気が排気を促進するあたりも2サイクルの大きな特徴です。

このようにピストンがバルブとして働くのでそのタイミングはポートの位置、特にポート上端の位置で決まってしまいます。

排気ポートの上端が上にあれば、排気ポートは早く開き、遅くまで閉じません。つまり4サイクルで言うところの排気バルブが長く開いているのと同じなので高回転向きとなります。上端の位置が下にあればその逆で低回転向きになります。またこれは掃気ポートにも言えることです。


可変排気ポート機構

従って排気ポートの位置決めがやはり悩ましい訳ですが、シリンダーについた穴ですから、これを可変にするのは不可能か極めて難しいと思われました。しかしこれは案外難しくなかったのです。ヤマハは次のようにして解決しました。

[YPVSの構造]

排気ポートの上端に鼓型のバルブを設けて、回転数に応じて開閉するのです。これがYAMAHA Power Valve System(YPVS)ですが、実は私はこの仕組みを初めて見た時怪訝に思いました。シリンダー壁って上下方向は平らなので、こんなものでポートの上端の上げ下げができるのだろうかと。ピストンとの間に隙間がどうしてもできるだろうと思ったのです。

確かにこれだとピストンとの間に隙間ができますが、それは殆ど問題ないということでした。極端に言えば抵抗になっているだけでも十分効果を発揮するのだと、当時通ってたYSPのあんちゃんが教えてくれました。

ホンダがNSRで採用するRC(Revolutional Controled)バルブも同じ原理で、上の方からシリンダー壁のようなバルブがスライドして下りてくるのです。これもピストンとの間には隙間がありました。それこそスズキがRGVガンマで採用したAETC(Automatic Exhaust Timing Control)などは仕切り板のようなものがポート上部にせり出してくるだけで、まさに抵抗を作っているというものでした。カワサキのKR-1で使っているKIPS (Kawasaki Integrated Powervalve System) も全く同じ原理のものです。

因みにYPVSは元々は排ガス規制に対応するための排ガス対策の研究をしている時に考案された仕組みのようです。

このYPVSを始めRCバルブ、AETC、KIPSなど排気ポートの位置を回転数に応じて変える仕組みを総称して可変排気ポート機構(システム)と呼びます。


チャンバーの役割

2サイクルマシンのマフラーは中間部が膨らんだ独特の形状をしていますよね。これを正式にはエキスパンションチャンバーと呼ぶそうですが、一般的には縮めて「チャンバー」と呼ばれてます。

これは勿論意味なくこのような形をしている訳ではありません。チャンバーはエンジンの一部と言われるほど2サイクルマシンにとって重要なパーツです。この形状が排ガスの排出促進混合気の吹き抜け防止という2つの効果に貢献しています。

[チャンバー内の排ガスの流れと圧力]

シリンダーの排気ポートから排出された排ガスはエキゾーストパイプを通ってきますがこの時は高圧です。それがテーパー状に広がったダイバージェントコーン(divergent cone)※部に進んで急激に膨張します。 その結果ここで圧力がぐっと下がります。そのままストレート部を進んで、逆テーパー状になったコンバージェントコーン(convergent cone)※部圧縮され、再び高圧になります。

※ダイバージェットとかコンバージェットと間違えているサイトや人が多いので注意。意味は辞書で調べてね。

上の図は時系列に書いてますが、実はAのダイバージェントコーン部での膨張によってエキゾーストパイプ部も圧力が下がります。それは排気ポート付近にも伝わり、これが高圧なシリンダー内の排ガス排出を促進するのです。

[排ガスの排出促進]

この話はこのくらいの説明で十分理解できるかと思います。次の混合気の吹き抜け防止については、そもそも混合気吹き抜けの話をしてないのでそこから説明が必要ですね。

排気ポートに続いて掃気ポートが開くと、混合気が勢いよくシリンダー内に入ってきて排ガスを押し出すことは説明しました。しかしその際には敢えて言及しませんでしたが、この時混合気が勢い余って排ガスとともに排気ポートに排出されてしまうといったことが起こります。これは吹き抜け現象と言って非常に好ましくない事象です。

もう一度2サイクルエンジンの動きを見て下さい。

[2サイクルエンジンの動き]

混合気の掃気によって排ガスを押し出した後、混合気が排気ポートの外に流れています。これが吹き抜け現象ですね。

しかしこのアニメーションではすぐに戻っているのが分かるでしょう。これはちょっと変だろうと気づき、このGIFアニメの作り方を間違ったのではと思った方は素晴らしいです。いいところに気がつきましたねと褒めてあげたいです。

しかしこれは変でもGIFアニメの作り方を間違った訳でもなく正しいのです。このような動きをします。というか意図的にそうさせるように作っているのです。これがチャンバーの最も大きな役割の一つである混合気の吹き抜け防止」効果なのですが、以下のようなカラクリです。

先ほどの「チャンバー内の排ガスの流れと圧力」の図でコンバージェントコーン部で排ガスが圧縮されて高圧になると説明しています。この圧力は細くなっているテールパイプの影響もあって行き場を失い逆方向(シリンダー方面)に反射します。気体の圧力というのはこのように反射したり進んだりするのですがこれを圧力波と呼びます。

この圧力波がやがてシリンダーまで戻ってきます。

[圧力波の反射]

圧力波は縦波(疎密波)なのでこの図は横波で正しくないですが、縦波は図示しにくいのでイメージとして捉えて下さい。

そしてその圧力波が排ガスとともに排出された、つまり吹き抜けた混合気をシリンダー方向に押し戻すのです。こうして混合気の吹き抜けを防止する訳です。

ところで圧力波はその名の通りなので、その性質は物質を媒体に伝搬する典型的な波である音波と同じです。通常音波はサイン波で描かれることが多いと思いますが、これは図のようにパルス波です。パルス波は脈を打つような動きなので、これを排気脈動と呼び、その作用を脈動効果と呼びます。

余談ですが、たまにこの仕組みを説明しているサイトでコンバージェントコーンで反射するのがあたかも排ガスそのもので、反射してきた排ガス自体が混合気を押し戻すかの如く説明している場合があります。そのため念のため申しますが、あくまで戻ってくるのは圧力です。排ガス分子自体も多少は逆流しますが、そんな長い距離を遥々戻ってこないので気をつけて下さい。

ところでここで圧力波と言ってますが、これは高い圧力の波なので正圧波と言います。逆に低い圧力の波である負圧波というものもあります。先に排ガスの排出促進の説明のところで「ダイバージェントコーン部での膨張によってエキゾーストパイプ部も圧力が下がります。それは排気ポート付近にも伝わり」と書いてますが、実はこれはダイバージェントコーン部での膨張によって発生した負圧波が伝搬しているのです。

[負圧波の伝搬]

この時は圧力波の話をしないでも効果が分かると思って、敢えて小難しい話は避けましたが実際はこういう話です。

つまり結構複雑な脈動がチャンバー内では発生していることになります。

この複雑な排気脈動効果的に利用して、排ガスの排出を促進しながら混合気の吹き抜けを防止する重要な役割を担っているのがチャンバーという訳ですが、ここでも高回転低回転で両立しがたい問題があります。


チャンバー設計の難しさ

圧力波は音波と性質が同じなので速度なども同じです。音速は通常時速1,200kmと教わった方が多いでしょう。秒速にすると330m/sですが、これは常温の大気中での速度です。音速は媒質の性質(分子量が多いか少ないか)や相(気体か液体かなど)圧力温度密度よって大きく変わります。温度の場合、気体だと高くなると速くなります(個体だと逆です)。チャンバーの中は300度から500度あり、この場合音速は500m/sくらいになるようです。

逆に温度で一律に排ガスの圧力波の速度が決まってしまうということなので、チャンバー長によって圧力波が戻ってくる時間も決まってしまうということになります。

一方シリンダー側はというと回転数によって最初の排気(これが圧力波発生の契機)から掃気が行われて混合気が吹き抜けてしまう時間(圧力波に戻ってきて欲しい時間)が全然違う訳です。高回転だと早く返ってきてほしいし、低回転だと遅い方がいい訳です。

つまりチャンバー長が一定なら圧力波の戻り時間が一定なので、適切な回転数が狭い範囲に固定してしまうと言うことになります。

ただ高回転の方が温度は高いです。しかし回転数に比例して上がる訳ではありません。例えば3000rpmと6000rpmでは圧力波が返ってきてほしい時間は倍違う訳ですが、温度差はそこまでありません。100度も変わらないと思います。更に温度差に対して比例して速度が変わる訳でもありません。以下が気体の温度と音速の関係を示したグラフです。

100度違っても10%程度しか速度が変わりません。従ってやはりチャンバー長で適切な回転数が限定されるという点はあまり変わりありません。

どのような性格のエンジンにするかコンセプトを決めて、折り合いのつくチャンバー長を模索していく他ないのですが、実際は温度もチャンバーの場所によっても変わるので計算通りいかないことが多いです。

またこれまでは圧力波の速度のことばかり気にしてましたが、その強さ長さも関係してきます。

圧力が強い場合(正圧波ならより高く、負圧波ならより低い)、その圧力波の効果より強く出る訳ですし、圧力が長いって少々変な表現ですが、つまり圧力が強い状態が長く持続すれば、圧力波の効果がより長く持続される訳です。

チャンバー各部の長さ太さ角度によって、様々な場面で圧力波の強さや長さが変わってきます。

  • エキパイの長さ
    長くなればなるほど負圧波の戻りが遅くなり、排ガスを吸い出すタイミングが遅くなります。
     
  • ダイバージェントコーンのテーパー角度
    テーパー(広がり方)が急になればなるほど負圧波が強くなり、排ガスに対する吸力も強くなりますが、急すぎると流速が落ちて逆効果になります。
     
  • ダイバージェントコーンの長さ
    長いと負圧波が長くなり、排ガスを吸い出す時間を長くできます。
     
  • コンバージェントコーンの長さ
    長いと反射する圧力波を長くでき、吹き抜けた混合気を戻す時間も長くできます。
     
  • コンバージェントコーンのテーパー角度
    テーパーが急だと反射する圧力波も強くなり、押し戻す力が強くなります。
     
  • テールパイプの太さ
    太くするとコンバージェントコーンの働き(特に反射する圧力波の強さ)が低減されます。
     
  • ストレート部の長さ
    ストレート部自体の長さはそれ単体での効果は特にないですが、前述のように他のパーツの長さが様々な要因で制約されるので、チャンバー全体の長さの調整にこの長さが利用されます。
      

一般的に長さについては長い方が低回転向き、強さについては強い方が高回転向きですが、それぞれの関係やバランスもあって一概に言えず、更には前述のピストンによる排気タイミングとの関係も調整しながら試行錯誤しながら、少しずつ追い込んでいくかないのでチャンバーの設計・製作とても難しいのです。

いずれにしても高回転も低回転も共に満足できるようにすることは普通はできないのです。


サブ・チャンバー機構

しかしその難しい課題に一つの解決策を与えたのがサブ・チャンバー機構です。

以下はその機構を市販車で初めて使ったNS250RのATAC(Auto controlled Torque Amplification Chamber)です。

[NS250RのATAC]

エキゾーストパイプにサブ・チャンバーを設けて、その入り口にバルブをつけて低回転では開ける、高回転では閉めることで実質的にチャンバー長を変えてしまうという試みです。

エキゾーストパイプ部にあるので、ダイバージェントコーンで発生した負圧波にもコンバージェントコーンで発生した正圧波にも効くのでとても効果的ですね。サブ・チャンバーを通るか通らないかの2択で多段階で調整はできませんが、それでもないとあるでは格段の違いがあります。

スズキもほぼ同じ方式のSAEC(Suzuki Automatic Exhaust Control) をRG400Γ、RG500Γで使っており、後のモデルチェンジでRG250Γにも搭載しています。

このサブ・チャンバー機構は前述の可変排気ポート機構と共に、高回転と低回転を両立させるという同じ効果があるのと排気側に取り付けるデバイスということで、総称して「排気デバイス」として語られることが多いです。

両機構は排他的な機能ではないと思うのですが、両方搭載しているエンジンを見たことがありません。サブ・チャンバー機構を搭載していたモデルが、後に可変排気ポート機構を搭載するとサブ・チャンバー機構をやめてしまうので、何か同時に使えない問題があるのか、同時に使う意味がないのでしょうか。また必ず可変排気ポート機構の方が採用されるということはこちらの方が優れているようです。可変排気ポート機構は多段階で調整できる点がポイントなのかもしれません。

ところでカワサキが採用しているKVSS(Kawasaki Valve Synchronization System)はちょっと変わった方法をとっています。排気デバイスではあるのですが、両気筒のエキゾーストパイプを繋ぐ連結管を設けて、低回転時は連結高回転時は切り離しています。効果は可変排気ポート機構やサブ・チャンバー機構と同じように高回転と低回転の両立ですが、詳しい説明資料を見たことがないのでどういった仕組みなのか正しいことは分かりません。

両気筒はバランスさせるために行程を180度ずらしているので、いつも正反対の行程を実施しているはずです。一方の気筒が掃気、排気をやっている時は他方の気筒では丁度圧縮・爆発の行程なので、排気ポートは閉じており、あまり排気には動きがない時間帯です。もっとも圧力波は弱まりながらもチャンバー内の行き来を続けているので他気筒のこの圧力波を使っていると思われます。


  
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